2回目のビンセントと天使の出会いは、1993年の12月でした。
その出会いの前に、二つ、天使との出会いに結びつく出来事がありました。
7月。
ビンセントは夢を見ました。
それは不思議な夢で、広い部屋の中にたくさんのキャンドルが立ててあるのですが、全てのキャンドルに火が灯してあるわけではないのです。
ビンセントは夢の中で、なぜ火が灯されていないキャンドルがあるのか不思議に思いました。
すると、彼の後ろの方から悲しげな声で
「もし、全てのキャンドルに火が灯されていれば・・・」
という言葉が聞こえました。
振り返ると誰も居ません。
そして翌週、また同じ夢を見ました。
ビンセントは聖書を学ぶ会で、この夢の内容を参加者に伝え、いつの日かその意味を神が教えてくれるようにと祈りました。
10月。
ある日、トラックを運転していたビンセントは、バッテリーがあがっため、道路わきに車を駐車し助けを待っている人に出会いました。
ビンセントは車を寄せて助けようとしましたが、ジャンパーケーブル(二つの車のバッテリーをつなぐケーブル)を持っていないため、どうすることもできませんでした。
助けを待っていた人物はがっかりしましたが、しかしビンセントは彼にこう言いました。
「どんな困った時でも、神を信じ、祈れば助けは来るものです。このような状況でもね。」
そして大きな声で神に助けを求める祈りをあげました。
祈り終わったビンセントは、スチールのハンガーが道に落ちているのに気付きました。
彼はそのハンガーを半分に切って、片方をバッテリーのプラスに、もう片方を車のボディにくっつけて、見事に相手の車をジャンプスタートさせることが出来たのです。
ビンセントの親切と信仰心の強さに感銘を覚えた見知らぬ人は、自分も困ったら神に祈るようにしてみるよ、と笑顔で走り去っていきました。
その二日後、ビンセントは、今後のためにとジャンパーケーブルを買ってトラックに載せておくことにしました。
そして、12月23日。
午後11時のこと。
友人の家を訪ねた帰り、ビンセントはボンネットを開けて停まっているのトラックに出会います。
75歳くらいの老人がその車の前に立っていたので、ビンセントはさっそく車を停めて、彼に声をかけました。
「大丈夫ですか?」
そうたずねると、老人は
「バッテリーが上がってしまったんだ。」
と応えました。
「私に何か出来ることがありますか?」
とビンセントがたずねると
「あなたのトラックからジャンパーケーブルを取ってきてくれるかい?」
と言われてびっくりしました。
というのも、この老人に言われて、ビンセントは自分が2ヶ月前ジャンパーケーブルを買ったことを思い出したからです。
言われるまでは、すっかり忘れていたのです。
この老人は、まるでビンセントがジャンパーケーブルを購入したことを知っていたかのような言いぶりだったと、あとでビンセントは思ったそうです。
さて、あたりは照明塔もないため真っ暗闇で、ケーブルをバッテリーにつなぐためには、懐中電灯なしではできませんでした。
やっとのことで、自分の車のバッテリーにケーブルをつないだビンセントは、老人を助けてあげようと振り返りましたが、その時にはすでに老人はケーブルをつなぎ終えていました。
懐中電灯も無い状態で。
ビンセントにしてみると、まったく不可能なことだと思えました。
ビンセントは老人に言いました。
「エンジンをかける前に、ちょっとやることがあるんで、待ってくれますか?」
老人はビンセントを見つめると
「それは、もうわしがやっておいたよ。」
と応えました。
「やっておいたって、何を?」
不思議に思ってたずねると
「君の車のタイヤの前にレンガを置いて、車が動かないようにしておいたよ。それをやりたかったんだろう。」
これには、またびっくりしてしまいました。
ビンセントは車に2個のレンガを積んでおり、ジャンプスタートをする前に、タイヤの前に置くつもりでした。
というのも、エンジンをスターとさせるためには、ギアをニュートラルの状態にしなければならなく、彼の車のハンドブレーキは、今ひとつ信用できない状態だったからです。
なぜ老人がレンガを積んでいることを知っていたのか、またなぜビンセントがタイヤの前にレンガを置こうと思っていたことを知っていたのか。
ビンセントがタイヤを確認すると、老人が言うとおりレンガでしっかりとブロックされていました。
しかも、ビンセントが置こうと思っていた、まさにその置き方で。
この時点で、ビンセントはこの老人が普通の人ではないことにうすうす気付き始めました。
3月のガブリエルと名乗る人物との経験から、この老人ももしかするとエンジェルかもしれないと感じ始めました。
もし神がもう一度、エンジェルとの出会いへと導いてくれるのであれば、たくさんの質問をしたいと思っていたのです。
しかし、ビンセントに対して何か未知の力が働いているようで、質問をすることがことができず、ただただ老人が話しかけたことに頷くか、返事をすることしか出来ませんでした。
いよいよビンセントが車のエンジンをスタートさせようとすると、老人がこう言いました。
「わしの車のバッテリーが充電されるまで、君の車の中で休んでもいいかい?」
ビンセントは同意し、二人でトラックに乗り込みました。
車内で老人はビンセントの方を向くと
「一緒に神にお祈りしてもいいかい。神はいつも奇跡を起こしてくれるからね。あのハンガーを使って車をスタートさせたようなね。」
老人がハンガーで車をスタートさせたことを知る由もありません。
この言葉でビンセントはこの老人が間違いなくエンジェルであることを確信しました。
老人は祈りをあげました。
「神聖で偉大な天なる神よ。あなたがもうすぐ私達の前に助けに来ることを知っています。アーメン」
ビンセントは、この老人の深い祈りの声に畏敬の念を覚え、背筋がぞっとするほどの神聖さを覚えました。
老人はビンセントの方を向くと
「神はやってくると信じているかい?」
「信じてます。」
ビンセントはうなずきました。
「神はすぐにやってくる。我々はそれに備えなければならない。」
それから老人は、
「君の聖書をちょっと貸してもらっていいかな?」
と聞きました。
ビンセントが同意すると、老人は場所をたずねることも無く、グローブ入れの箱をあけ聖書を取り出したのでした。
まるで老人は最初からどこに聖書をおいているかを知っているかのように。
「聖書を読み、学んでいますか?」
と聞かれ、ビンセントは頷きました。
「それはいい。しかし残念なのは、まだまだたくさんの人々が学ぼうとはしていないことだ。聖書を学ぶということは、たくさんの火をともしたキャンドルがある部屋にいるようなものだからね。」
ビンセントはこの言葉で、半年前に見た夢の意味を直感で理解しました。
火が灯されていないキャンドルの意味するところは、聖書を通して神の言葉を学ばない人たちを意味していたのです。
「全ての火が灯されていたら・・・」
ビンセントの背後で聞こえたこの言葉の意味は、もっとたくさんの人々に神の声を聖書を通して学んで欲しいという意味であったわけです。
この老人が天使以外の何者でもない、ということをビンセントはさらに確信しました。
老人は、ページを探すことも無く、自らが読みたいと思っていたであろうページをひとめくりで開くと、聖書の言葉を読み始めました。
そして別のページを開けると、さらに読み続けました。
この時もページを見ることも無く、彼が読もうとしていたところをさっと開けて、朗々とビンセントに読んで聞かせたのです。
どれも神がすぐにやってくるという内容でした。
老人は聖書を箱の中に戻し、
「バッテリーも充電できただろう。」
と言うと、自分の車へ戻っていきました。
エンジンは無事スタート。
ビンセントは老人のトラックの窓に近づくと
「心配なので、しばらく後ろをついていきますから。」
と申し出ました。
老人は
「ありがとう。ところで、お礼を少しだけ受け置いておいたから。明日、あなたのもうひとつの乗用車を満タンにさせるのに、充分と思うよ。」
といいました。
ビンセントがこのトラック以外に乗用車も持っているということを、どうしてこの老人は知っているのか?と不思議に思いましたが、それほど気に留めず、自分のトラックに戻りました。
その後、1マイルほど老人の車の真後ろにピタリとついて走っていましたが、カーブを曲がろうとするその瞬間のことでした。
一瞬のうちに目の前の自動車が消え去ってしまったのです。
またもや、前回のガブリエラ同様、まるで空気中に消滅してしまったかのように。
翌日金曜日、ビンセントは、トラックと老人が消えた場所に戻ってみました。
夜の暗がりのため昨夜は確認は出来ませんでしたが、きっと木や枝などがあって、その陰に隠れて見えなくなったのだろうと思っていたのです。
が、老人とトラックが消えた場所には、何ひとつ障害となるものはありませんでした。
人間世界の現象では、まったく説明ができませんでした。
彼はいつも金曜日にガソリンスタンドに出かけ、タンクを満タンにします。
この日はトラックではなく、乗用車を運転して、ガソリンスタンドに向かいました。
ちょうど$2.32でガソリンが満タン近くになったので、切りのよい値段ということで$2.35か$2.40まで入れようと、再度レバーを引きました。
ところが、どうやっても$2.34以上は入れることが出来ず、そこで不思議と止まってしまうのです。
その後、彼は友人の家を訪問することにしていました。
しかし、友人に渡す予定のクリスマス・ギフトをトラックの中に置き忘れたことに気付き、一旦家に引き返しました。
「この際、トラックを少しだけ掃除しよう。」
と、トラックの中の整理していると、助手席においてあった手袋の下にお金がおいてあるのに気付きました。
それは昨夜の老人が言っていた「お礼」であり、「明日乗用車を満タンにするのに充分」といって残していったものでした。
金額は$2.34、ガソリンスタンドでビンセントが満タンにし、支払ったまさにその値段と同額だったのです。
(つづく)
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